スケートリンクの溶けない魔法
松屋銀座の屋上スケートリンク「SORA×NIWA×ICE PARK~恋するアイス~」で「恋するアイストーリー」を連載。“ふたりが近づくスケートリンク”というコンセプトにちなんで、実際にあったエピソードをもとに、ときに一枚の写真から、ときに完全フィクションで、オムニバス形式の「恋物語」を書かせていただきました。さまざまな想いが「リンク」するこの場所で、どんなストーリーが生まれるのか。FBページで公開中です。
【恋するアイストーリーvol.1】
スケートリンクの氷はなぜ溶けないのか。
単純な話、氷の下が冷凍庫みたいになっているからで、アルミの板を敷いてキンキンに冷やしてある。その板に水を撒いて凍らせる。固まったら、また水を撒く。 それを繰り返して5cmほどの氷の厚みができたら完成なんだって。——彼女のそんな話を、僕はスケート靴を履きながら聞いていた。
僕は思う。まるで僕たちの恋愛みたいじゃないかと。水を撒いては凍らせる、そう繰り返すみたいに、心を開いては閉じて、お互いの秘密を少しずつ、ふたりの間に馴 染ませて。年月とともに、傷も絆も積み重ねていく。どれほどの厚みになれば、恋愛は完成するんだろう。5cm。明確な基準があればいいのに。
白い息をはきながら、彼女と一緒にリンクに上がる。ペンギンが歩くみたいに、ぱたぱたと氷の上を歩く彼女を、僕はやっぱり愛しいと思う。
『きゃっ!』
彼女が声をあげる。僕はそれを受け止める——ことができたら格好良かったのかもしれないけれど、受け止めた勢いで僕たちは一緒に転んでしまった。
目の前には彼女の顔。5cm。今、プロポーズすればロマンチックなのかな。5cm? 僕には、まだわからない。その距離が近いのか、それとも遠いのか。
それでも、僕は、彼女が好きだ。
僕が彼女にかけられた魔法は、きっと溶けない。