名言採集。



辞書は言葉の海を渡る舟。
編集者はその海を渡る舟を編んでいく。

「言葉を採集する。」
自分の仕事をそう表現できるって素敵だなと思う。

小さいころ見つけた宝物みたいに、
拾った言葉を引き出しの奥から取り出して、
何度も眺めなおしてみる。
その慈しみに似た感情が伝わってくる。

コピーライターも言葉にたずさわる仕事。
言葉を採集して、自分の中で編纂してアウトプットする。
その意味では同じなので、共感もひとしお。

「三浦しをん」という人は、
小説家の中でもとりわけ言葉を大切にする人なのだと思う。

いくつか作品を読んできたけれど、
題材への取材を徹底的にしていることがわかる。
未知の分野について書く責任として、
その分野で働いている人にウソや裏切りがあってはいけない。
そんな意志を持って、言葉選びを徹底してるはず。

それにしても、
なんて魅力的なキャラクターたちなんだろう。
みんなすごく愛しく思えるぐらい素敵。

馬締(マジメ)と、香具矢(カグヤ)。
うまいなぁ。すごく引き込まれる名前。
名前はその人をつくるというけれど、
小説は名前という言葉で人をつくる。

——なにかを生みだすためには、言葉がいる。
岸辺はふと、はるか昔に地球上を覆っていたという、
生命が誕生するまえの海を想像した。
混沌とし、ただ蠢くばかりだった濃厚な液体を。
ひとのなかにも、同じような海がある。
そこに言葉という落雷があってはじめて、
すべては生まれてくる。愛も、心も。
言葉によって象られ、昏い海から浮かびあがってくる。——

舟を編むの文中にある一説だが、
まさに「名前」も言葉に象られるもののひとつ。

そう考えているうちに改めて思いました。

辞書「大渡海」は、たくさんの人の情熱に支えられ
13年かけてようやく完成した商品。
コピーライターとして、ネーミングやコピーを
考えるという責任は、それだけの想いを背負うということ。
コピーライターに与えられるスケジュールは
1週間もないことが多いけれど、
決して彼らにウソや裏切りがあってはならない。

馬締のように真面目に、誠実に、
商品を人々に届ける舟を編んでいかねばと。